「エコトイ」では、4つの基準が設けられていますね。なぜ、これらが基準となっているのですか。
これまで、社内には環境に関するプロフェッショナルの者はいませんでした。そこで、タカラトミーグループ各社の横断メンバーで「エコトイ委員会」を立ち上げ、「エコトイ」の基準を考えることになりました。当社だけでは考え方に偏りが生じてしまうので、外部の方からもアドバイスをもらい、「エコトイ」の基準を設定したのです。この基準は、ISO(国際標準化機構)の環境ラベルの規格を参考にして、おもちゃに適した内容に変更しました。
当初は「省資源」「省エネルギー」「省エネルギー&廃棄物削減(電池不要)」の3つの基準からスタートしました。ここでいう廃棄物とは使い終わった「電池」であり、手動で発電するおもちゃにより廃棄物をなくして、繰り返し遊べることを意味します。例えば、「テコロジートミカ」という商品が「省エネルギー&廃棄物削減」の基準に該当します。さらに「エコトイ」活動をスタートさせてからも研究やお客さまとのコミュニケーションを重ねて、現在は「長期使用の促進」というメンテナンス時の基準を加えた4つの基準となっており、今後もこの基準については増やしていきたいと考えています。
従来の“トミカサイズ(※)”を変更させることなく小さな車体を維持して、電池を使わずに手で前後に動かすだけで、タイヤの回転が発電ユニットに伝わり、電気を発生させます。この電気により、車体のLEDが光るという仕組みです。
※具体的には、子どもの手のひらに収まるほどの大きさ。
実は「エコトイ」がスタートする1年ほど前に、最初の「エコトイ」といえる「テコロジートミカ」という商品をスポット的に発売していたのですが、電池なしで光る楽しいトミカとして人気商品となり、定番的に販売することになりました。2010年6月に「エコトイ」活動がスタートしてから、対象商品のパッケージを変更し、「エコトイ」マークを表示するようになりました。
「省エネルギー」と「省資源」の基準に当てはまる「おやすみトイ」シリーズの「天井いっぱい!おやすみホームシアター」は、赤ちゃんを寝かしつけるときに使うおもちゃ(ベビートイ)なのですが、サイコロ状の本体の天面から星空やキャラクターなどの映像がLEDライトで天井いっぱいに投影され、天井を映画館のスクリーンのように変えてくれる商品です。音楽を流しながら映像が回転するので、目と耳で楽しませてくれます。
従来の商品はいわゆる豆電球で投影していたのですが、それをLEDライトに変えることにより消費電力を抑え、「省エネルギー」を実現しました。使用する乾電池が単1から単2となり、商品自体のサイズをほぼ半分にまで小さくできた結果、本体に使用する原材料を少なくして軽量化を図った「省資源」という基準も満たしています。
最後にできた基準が、「長期使用の促進」です。これは、部品交換によって長く遊べる工夫を採用したおもちゃです。
例えば、「せんせい」という商品では、白いハニカムスクリ-ン(おえかき部分)の交換を可能にしており、繰り返し遊べることに加えて、ごみの削減にも貢献できました。
当社のお客様相談室や通販サイト「コッペパン」では、お客さまがハニカムスクリーンのみを購入することができるので、古くなってしまったハニカムスクリーンを交換して、新品と同様の機能を長く維持することが可能です。このように、部品交換により「長期使用の促進」を図っています。
余談ですが、「せんせい」のハニカムスクリーンは、白黒からカラーになったのですね。
1980年ごろは白黒だったのですが、途中からハニカムスクリーンに4色の色をつけた「カラフルせんせい」が発売され、現在(※2012年4月現在)では黒と赤の2色の線を書き分けられる「2カラーせんせい」という商品もあります。
昔から兄弟などで連続して使うという場合も多く、当社のお客様相談室で修理としてハニカムスクリ-ンを交換するケースはありました。現在では、部品を購入していただき、ご自宅で簡単に交換できるように改良しています。
社内に「エコトイ委員会」を設けているそうですが、どのような活動を行っているのですか。
各部署との意見交換をしながら「エコトイ」の基準をつくる、それに関連して各部署との調整をする、「エコ」にこだわりすぎて品質が疎かにならないように、当社の品質規定にのっとった形で商品がつくられるようにアドバイスを行うなど、その内容は多岐にわたります。「エコトイ委員会」は、開発や技術・品質管理・生産・環境など、それぞれの専門的な知識を持った部員から構成されています。
また、市場の調査やホームページの立ち上げなども、活動内容に含まれています。各事業部やグループ会社の社員に「エコトイ」を認知してもらう社内での啓蒙活動や、企画された商品が「エコトイ」として認定できるかどうかのチェックなども行っています。
商品の基準以外に「エコトイ」の基準も満たさなければならないという意味で、開発の苦労などはありますか。
タカラトミーの安心・安全という大前提の品質基準を満たすことはもちろん、「ST基準(※)」というものもクリアする必要があります。市場で販売される当社の商品は、これらの基準をすべて遵守したものでなければなりません。
※「社団法人 日本玩具協会」が設定する玩具の安全基準で、機械的安全性・可燃安全性・化学的安全性から構成される。STとは「Safety Toy(安全玩具)」の略。
また、環境に配慮した商品だから売れるのかというと、そうではありません。おもちゃ自体が楽しいもので、子どもたちが喜ぶようなものでなければ、「エコ」という付加価値がついていても、お客さまに受け入れられることはないのです。「エコ」であることに加えて、お客さまにとって斬新なものであればベストだといえるでしょう。これらのバランスをどう盛り込むかがとても難しいという意味で、開発に苦労しています。
「エコトイ」の基準を考えるに当たり、「エコトイ委員会」でもさまざまな意見が飛び交いました。
一般に、環境に関する基準というのは、従来品に比べて環境負荷がどうなのか(どれほど削減できたのか)という視点で決められます。しかし、新しいおもちゃの場合には比較対象となる商品がないというケースも多く、その際に、どのように基準を決めるべきかは悩ましいところです。
また、環境負荷を本当に軽減できているのかということもあります。ある負荷は減らしているものの、別の負荷は増えているというケースもあります。例えば、電池を使用しない点で環境に配慮しているものの、製造時にかかる負荷が以前よりも増えているというような場合です。
開発で最も苦労した「エコトイ」を挙げるとすれば、どれですか。
やはり、最初の「エコトイ」という意味でも「テコロジートミカ」ですね。手で動かすことで発電するおもちゃというのは以前からありましたが、当社の“トミカサイズ”のように小型化し、さらに子どもでも遊べる軽さにまで落とし込んだものはなかったのです。
実は、後述する「i-SOBOT(アイソボット)」というおもちゃに使用したモーターで実験を繰り返し、最終的には「テコロジートミカ」専用のモーターを自社で開発しました。
このように、小型化や軽量化は、総合的な技術力や人員を結集しなければ実現が不可能なのです。そして、商品である以上、コスト面の問題も考慮する必要があります。価格が高くなると、どんなにいい商品でもお客さまになかなか購入してもらえません。
それらをクリアし、ハイテクでありながら子どもが気軽に遊べる商品として「i-SOBOT」や「テコロジートミカ」を販売できているのは、当社の自慢できる点ですね。
- 環境問題への注目が高まった2008年にECOプロジェクトが発足
- 「共遊玩具」がベースとなった「エコトイ」
- 「エコトイ」の4つの基準と具体的な工夫
- 社外で高い評価を受ける「エコトイ」のユニークな取り組み
- 「思い出」や「思い入れ」のあるおもちゃに新たな命を
- 社内・社外における積極的な活動
- 「おもちゃ」と「子どもたち」がこれからのキーワード
(c)TOMY
「トミカ」はタカラトミーの登録商標です。