貴社の環境への取り組みについてお聞かせください。
省エネや低公害に対する感覚は当時からすでに備わっていたものの、環境への取り組みのルールについては未整備という状況でした。
創業者である本田総一郎の企業精神の話をさせていただくと、本田総一郎は創業7年史のなかで、「工場活動というものは、工場に材料を入れたら出て行くものは製品だけというのが理想である」と述べています。騒音も悪臭も、ゴミも出さないというのが、その場所に工場を建てさせてもらっている会社の務めであるというポリシーを持っていたのです。このような考え方は1972年の「CVCC」の成功以前より、我々の商品の環境対応目標として常に含まれており、弊社の工場活動のベースになっています。グローバルよりもローカルの視点から考え、工場のある地域の方々にご迷惑をおかけしないという考えに基づいて環境対応を行っているわけです。
当時は公害問題が騒がれていたころであり、本田総一郎も副社長であった藤沢武夫もそのような状況にかなり心を痛めていたようです。
このように、弊社の環境対応への取り組みはかなり早い時期から進められていたといえるでしょう。ただし、正式に経営理念のなかに環境への取り組みを含めたといえるのは、1992年にできた「環境宣言」以降となります。
「環境宣言」は「Honda 環境年次レポート」にも記載しています。多くの場合、このような宣言は時代の流れとともに改定されていくことになるはずです。その点、弊社の「環境宣言」はよくできていると思います。1997年の京都議定書が提案されたとき、CO2に対するコメントを盛り込むべきではないかという声が上がったため、一度内容の改定を試みたことがありますが、環境のエキスパートが3・4人集まっても改定する部分はなかったのです。非常に簡潔でありながら、環境宣言のなかにいいたいことが網羅されていたためです。
ホンダの環境への考え方というのは、『地球環境の保全を重要課題とする社会の責任ある一員として、Hondaはすべての企業活動を通じて、人の健康の維持と地球環境の保全に積極的に寄与し、その行動において先進性を維持することを目標として、その達成に努めます。』という言葉にすべて含まれています。……変えようがありませんよね(笑)。このポリシーに従って、現在でも環境対応を進めています。
このように志は完璧といえますが、社会の見方というのは徐々に変化していきます。我々が以前に考えていた環境というのは、人の健康維持や資源のリサイクルを重点的に考えていました。排ガス中に含まれる有害物質、工場から出る揮発性有機化合物(VOC=Volatile Organic Compounds)やゴミ、資源の循環などといった具合です。そのような時期は、CO2の排出に関しては環境対応というよりも事業の継続のためであり、使うエネルギー量を減らせば車を安く製造できるといった視点で考えられていました。車の製造に必要な原油の量、天然ガスの量、購入する電力量を少なくすれば、効率的な自動車製造が可能となり、エネルギーコストの削減につながります。CO2の排出に関していえば、エネルギーコストの削減に向けた取り組みとして、すでに行っているという感覚であったように思います。
しかし、1992年の環境宣言後、1997年ころから社会的に地球温暖化問題が注目されてCO2の排出が話題となると、意識的に弊社の軸足もCO2問題に比重を置いて取り組もうという方向になりました。
生産領域でも、1999年に日本国内の生産5拠点(埼玉、栃木、浜松、鈴鹿、熊本)において、埋め立て廃棄物や環境負荷をなくす「ゼロエミッション工場」を達成しました。それにより、1999年末にはプレスリリースも行っています。
しかし、1992年の環境宣言後、1997年ころから社会的に地球温暖化問題が注目されてCO2の排出が話題となると、意識的に弊社の軸足もCO2問題に比重を置いて取り組もうという方向になりました。
このように1990年代の終わりには、ホンダの提唱している基本的な汚染問題や人の健康問題に関して、ある程度企業として実践できることの目処がついたのです。
CO2の排出が増えるということに関して、我々はどのような立ち位置にいるべきか考えたときに、シンプルに答えが見つかりました。1990年代末時点で、ホンダでは年間で約1,300万人(2007年時点では約2,350万人)のお客様に車・オートバイ・汎用製品(発電機・耕うん機・エンジン単体など)をお届けしていました。冷静に考えると、1,300万台の全てに化石燃料を使っていることになるため、我々はCO2に関して無視や放置することはできないわけです。車やオートバイはCO2の排出するのであり、気候変動の原因につながるので、ホンダは自社の製品や生産を含めた企業活動にしっかり取り組まなければなりません。
また、1997年には生産現場でのあらゆる環境負荷を減らすために「グリーンファクトリープロジェクト」を立ち上げ、いかにエネルギー使用量や企業活動でのCO2の排出量を削減するかというところに重点的に取り組んでいます。
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