今回の「エコなニュース」は、前回に引き続き、
本田技研工業株式会社様の取り組みをご紹介。
後編では、新型燃料電池車「FCXクラリティ」のお話からスタートです。
- 環境安全企画室
室長
篠原様
- 広報部
企業広報ブロック
主任
安藤様
早速ですが、よろしくお願いいたします。
燃料電池車FCXクラリティの開発の苦労点はありますか。
ホンダは、1972年に「CVCC」方式のエンジンによって世界で初めてマスキー法をクリアし、排出ガスのクリーン化にいち早く対応してきました。実は、燃料電池車の開発にもかなり以前から取り組んでいたのです。
1990年代半ばにもなると、次の世紀に向けて燃料電池車が注目され始めるようになり、ほかのいくつかの自動車メーカーでも、燃料電池車の開発を進めているといった話が聞かれるようになりました。
この当時では高圧水素を車に搭載するということは、(実際には問題はないのですが)問題があるのではないかと考えられていました。水素はものすごく軽いため、相当圧力を上げなければ大量に積むことはできないこともあり、高圧水素は無理だろうと考えられていたのです。
そのため、「改質(※)」によってアルコールから水素を取り出し、その水素を使って燃料電池を駆動し電気を取り出すという研究を盛んにしていました。まことしやかにいわれていたのは、ガソリン改質というように化石燃料を改質して水素を作り出し、その水素と空気中の酸素を結びつけて電気を作るほうがいいのではないかということです。当時は、水素そのものを車に積むのは感覚的に問題視されていた時代でした。
※改質=メタノールなどから水素を製造すること。
飛行船「ヒンデンブルグ号」の事故を知っている方であれば、水素というのは非常に軽い・燃えやすい・爆発しやすいといったイメージがあるようです。ヒンデンブルグ号が燃えている映像はインパクトのあるものですが、実は、あの事故では水素はほとんど燃えておらず、機体を軽量化するために表面に用いたナイロンが燃えていたのです。飛行船のかなりの面積をナイロンで覆っていたわけですが、ナイロンこそ石油化学製品のため燃えやすいのです。水素は空気よりもかなり軽いので、燃える以前に船体に裂け目ができた時点で空中にかなりの量が拡散したはずです。
さて、その後は実用化競争に入り、どのメーカーが一番早く水素を搭載した車を出すのかという勝負の時期となりました。勝負やレースでがんばるホンダが、開発競争に燃えないわけがありません(笑)。すでにLPG車(液化石油ガス)やCNG車(天然ガス)は存在しており、燃料電池車として高圧水素を搭載してもいいのではという考えがあり、ホンダでは高圧水素の搭載車のみに絞って開発を進めてきました。
それから時代が変化し、「化石燃料がなくなるから水素」ではなく、「CO2を減らすための水素」が注目されるようになったのです。CO2を減らすための水素という場合、アルコール改質とガソリン改質のどちらでもCO2を排出するので、改質による燃料電池車はCO2削減の効果が小さいことがわかりました。純水素の燃料電池車のほうが、CO2削減の効果はかなり高いのです。ただし、そうなると純水素をどこから調達するかという新たな問題が出てきました。
水素燃料電池車の開発の動機が、資源の枯渇からCO2の削減ということに切り替わった瞬間に、高圧水素に高い注目が集まったのです。先ほどお話したように、ホンダではすでに高圧水素の搭載車ひとつに絞って開発を進めていたので、競合他社よりもリードすることができました。実際にお届けすることができた水素燃料電池車の台数は、現状ではホンダが世界一となっております。ちなみに、先代のFCXでは、ご提供した台数は34台となっています。それ以外にも社内用のものもあるので、全部で40台ほど実用化していることになります。
今回のFCXクラリティは、2011年ころまでに日米を中心に200台ほどの販売を予定しています。ただし、世界的な不況の影響もあって、米国への供給のペースは減少傾向にあります。そのため、正直なところは予定の台数ほど伸びていません。ちなみに、日本ではFCXクラリティは省庁へのリース販売がメインで、1ヶ月のリース料金は80万円ほどとなっています。
FCXクラリティの特徴は、どのようなものなのですか。
そもそも「FCXクラリティ」には、現在ホンダが考えうる技術・能力の全てを尽くして、お客様にとって従来のガソリンエンジン車よりも、より魅力的で、お客様が何の不便も感じない車を開発しようというコンセプトがありました。
「FCXクラリティ」の特徴は、シンプルにいうと燃料電池を従来のFCXと比べて小型化したことです。高級セダンやスポーツタイプの車ではよく採用されている運転席と助手席間のセンターコンソールのスペースに、燃料電池を縦型・小型化して押し込みました。その結果、従来の燃料電池では車両の下に配置していたため、搭載車は腰高というケースが多かったのですが、FCXクラリティでは燃料電池の配置を考えて、重心位置も車高も低く抑えることに成功しています。
また、前方の車輪と車輪の間にモーターなどの全部のコントロールユニットを配置し、後方の車輪の間には大きなタンクを設けています。さらに、その後ろはトランクになっています。前方と後方の車輪の間は人が乗る空間です。米国で販売されているアコードとほぼ外形サイズが同じであり、室内空間はかなり広くなっています。従来は燃料電池による制約があったのですが、前述の技術によって低い床を実現し、低い車高ながらゆったりとした空間を生み出しています。
さらに、燃料電池の効率を上げ、1回水素を充填すると(モードにもよりますが)620kmほどの距離を走行することが可能です。水素充填に必要な時間は、普通のガソリン車にガソリンを入れる時間と同じです。620kmも走行できるとなれば、ガソリン車とほとんど変わりません。燃料電池車というのは要するに電気自動車であり、燃料電池によって電気エネルギーを発生させて走行する自動車というわけです。
現在、他社でも電気自動車を発表していますが、それらはバッテリー電気自動車なのです。かなり重い(200kgほど)バッテリーを搭載していますが、1回充電して、軽自動車サイズの車を160Km程度走らせるのがやっとです。その点、FCXクラリティがいかに長距離を走行できるか、分かっていただけるかと思います。
- 実用化に先駆けて開発-新型燃料電池車「FCXクラリティ」(1)
- 今後は市販化も検討-新型燃料電池車「FCXクラリティ」(2)
- 開発から廃車まで-製品の資源循環
- ハイブリッドカーと電気自動車の関係
- 別の車種でもハイブリッドカーが登場