水素(燃料)の補給については、どのように行うのですか。
高圧水素を供給できる十分な設備があれば、6分ほどで補給を完了することができます。一般のガソリン車が満タンになる時間と、ほとんど差はありません。
お客様の立ち位置から見たときに、“普通の車”に仕上げたというのがFCXクラリティの最大の特徴といえるでしょう。実際に乗ると、普通の車が要らなくなると感じるほどの性能を有しています。簡単にいえば、自分で運転できる新幹線のようなものです。
私も実際に乗ってみましたが、ある種の運転の気持ちよさを体感することができます。普通のAT(オートマチック)車の加速は、(最近の車はよくできているので)あまり気がつきませんが、細かく見るとファーストギアでぐっと加速し、セカンドギアに切り替わったときに段差があって加速、サードギアでさらに落ちてから加速するという、いわばギアの数だけ段つき加速をするのですが、FCXクラリティでは走行してすぐに、タイヤの音しか聞こえない伸びやかな加速を体感できます。変速機を介さないので最高速度まで“シューン”と加速が伸びていく異次元感覚です。まるで新幹線の加速感だけど、音はしないという気持ちのいい感覚です。
燃料電池の水素の補給には、現状で考え得る方法が2つあります。ただし、水素の補給の一般化には課題があるといえるでしょう。
まずひとつは、CO2を若干排出してしまうのですが、「家庭用の天然ガスから水素を取り出す」方法です。家庭用の天然ガスを水素に変え、燃料電池車に供給します。天然ガスを改質し水素を取り出し、それを高圧タンクに溜め、それを車に供給する「Home Energy Station」というシステムです。原理としては、最近日本でも他社が販売し始めた燃料電池コジェネに近いもので、天然ガス(※CH4=メタンが主成分)を、改質器を通して水素に変えます。水素を高圧タンクに蓄えつつ、燃料電池を駆動すれば、天然ガスから燃料用水素と電気と熱を取り出すことが可能になります。現在我々は米国で研究しています。もし、日本の家庭で高圧水素を溜めておくことが可能となれば、夜間に十分車が走行できるだけの水素の確保も可能になるはずです。
もうひとつホンダがチャレンジしているのは、ソーラーパネルで発生させた電気で水を電気分解し、水素を取り出す方法です。年間の晴天率の高いカリフォルニアの弊社の研究所内で実験しており、これが実用化となればCO2フリーのモビリティの実現になります。現在のレベルでは、比較的大きな一軒家の屋根全面ほどのソーラーパネルで1年間水素を作ると、弊社のFCXクラリティが約2万Km走れるぐらいの量となり、大体1台分の車のエネルギーをまかなうことができます。まだまだ実験段階なのですが。
「Honda燃料電池自動車教室」というものを実施していますね。
「Honda燃料電池自動車教室」では水素が何から作られるのか、水素燃料は危険なものではないということ、水素から電気を作って燃料電池自動車を走らせる仕組みなどを、ホンダの研究所の人たちが分かりやすく説明します。水素燃料電池自動車というのはモーターで走る電気自動車の一種だということを、子供たちに分かりやすく解説し、興味を持ってもらいたいと考えています。
「Honda燃料電池自動車教室」の究極の目的は、教室に来てくれる子供たちが、将来には燃料電池車を購入・利用する立場になってくれているということです。新しい価値観というのは、啓蒙していかなければ他人に理解してもらえません。単に啓蒙といっても、大人に対してではなく、小さいころから行うことで、燃料電池自動車の仕組みを抵抗なく理解してもらえればいいと思っています。
そういった理由もあり、「Honda燃料電池自動車教室」は興味を持ってもらえるように面白い内容となっているので、子供たちには好評ですね。
燃料電池自動車教室は1ヶ月~2ヶ月に1回ほどのペースで、本社の1階で研究所の実際の開発者が説明を行っています。実は、私も小学生に対して燃料電池自動車の説明を行うことがあります。
弊社のホームページで、「Honda燃料電池自動車教室」の開催のお知らせを掲載しています。ぜひ、ご参加いただければと思います。申し込みは子どもの方でなければできませんが、大人の方でも見学することは可能です。
「FCXクラリティ」は日本ではリース販売となっていますが、今後は市販化も検討されているのですか。
もちろん、市販化を検討しています。希望としては、あと10年ぐらいで販売することができればと思っています。
FCXクラリティをリース販売としている理由には、燃料電池自動車の台数が非常に少ないことと、コストが高いということが挙げられます。また、水素に対するアクセシビリティという課題があり、地域も限定させていただいております。そのような理由もあって、現状はリース販売のみとなっています。
さらにいうと、市販化するに当たってお客様にお届けする妥当な値段を考えた場合、その価格にプライスダウンして開発できる水準にまで、技術的に達していないという点も挙げることができるでしょう。これらの理由から、現状では安くすることは難しいといえます。
そのような問題をクリアし、将来的には市販化することを目指しています。ただし、現在のFCXクラリティが市販されるのか、次世代のFCXクラリティが市販されるのかは分かりませんが。
現状のFCXクラリティというのは、お客様の目から見たとき、何の不自由もないモビリティとしての魅力が付加されており、使用時の利便性についても一般の電気自動車のように妥協を強いることのない理想形を見せているのです。
- 実用化に先駆けて開発-新型燃料電池車「FCXクラリティ」(1)
- 今後は市販化も検討-新型燃料電池車「FCXクラリティ」(2)
- 開発から廃車まで-製品の資源循環
- ハイブリッドカーと電気自動車の関係
- 別の車種でもハイブリッドカーが登場