スマートシティ(スマートビジネス)に関する取り組みも行っていますね。
HP Power Assistantやシンクライアント、クリティカルファシリティサービスはITそのものの消費電力やCO2削減(Green of IT)に関するものでしたが、スマートシティはITを活用して消費電力をどのように削減するか(Green by IT)に関する取り組みです。
スマートシティの取り組みの説明に入る前に、ITの利用の仕方について話をさせてください。コンピューターなどのIT技術が発明された当初は法人向けという側面が強く、企業のシステムとして利用されていました。その後、パソコンという形で個人に普及し、さらに社会インフラとしてどのように活用していくか、住みやすい社会の実現に向けてどうすべきなのかというように、ITの利用は移り変わっています。スマートシティやスマートコミュニティでは、ITによって豊かな社会をいかに実現するかが課題と言えるでしょう。
当社ではスマートシティを「Future City」とも呼んでいるのですが、その実現には「テクノロジーの進化」「ビジネスモデルの進化」「人の価値観と暮らし方の変化」という3つが鍵だと考えています。
まずは、テクノロジーの進化についてですが、この10年でITで処理できる情報量が爆発的に変化しており、いわゆる“ビッグデータ”と呼ばれるものをキーワードとして、現在はどのように社会を改善することができるのかが焦点となっています。
ビジネスモデルに関しても、激変する市場とテクノロジーの組み合わせによって新たな事業が誕生し、進化を続けています。1995年にポータルビジネスがスタートし、その後検索連動型広告やWebのネットワークの情報化が進み、個人情報のあり方もかなり変化しました。さらに、近年のスマートフォンに代表されるデバイスやNFC(※)の技術の登場により、さまざまな形でサービスを配信することが可能となっています。
※「Near Field Communication」の略称であり、通信距離が10センチメートル程度という「近距離無線通信技術」のことを意味する。非接触ICカードの通信および機器間相互通信が可能であり、いわゆる「かざす」動作のように、機器を近づけることによって通信を行う点で注目されている。
最後に人の価値観と暮らし方の変化についてですが、東日本大震災以降は人の価値観に大きな変化が見られるようになっています。高度経済成長の時代が終わり、東日本大震災の経験を経て、それぞれの感性に従って生き方を捉えるようになりました。そのような部分について、さまざまな情報やデバイスを使って、いかにそれぞれに合ったサービスを提供していけるのかを考えることが、当社が目指していく点だと考えています。
そのためには、エネルギーや環境負荷といった部分について、みんなが一斉に同じことを進めるのではなく、各個人に合った削減方法を提案できるようになるのが理想ですね。暮らしとテクノロジーの融合による“Mass Production”から“Mass Bespoke(※)”への変革に対応しなければなりません。自分のライフスタイルや価値観に合わせた形での支援という位置付けでのITサービスを提供できないか、考えていく必要があるでしょう。
※いわゆる受注生産品やオーダーメイドのことを意味する。
「Future City」の枠組みとして、当社では「社会・環境」「企業」「教育」「ICT(※)」「行政」「公共」という6つの軸を持っています。これらの軸でいかにITを活用して、社会を改善できるかについて試行錯誤を重ねております。
※「Information and Communication Technology」の略称であり、「情報通信技術」のことを意味する。
日本国内ではエネルギーがCO2削減における大きなテーマとなっていますが、当社は豊田市でトヨタ自動車株式会社などとともに、低炭素社会実証プロジェクトに参画しています。また、ハワイのマウイ島ではNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization/独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で離島型スマートグリッド実証事業に、柏の葉では、スマートシティ企画株式会社が中心となる地域住民とともに環境だけでなく新産業育成を含めたスマートシティ(環境未来都市)構築実験に参画しています。
スマートシティ実証実験の具体的な内容についてお聞かせください。
豊田市の低炭素社会実証プロジェクトでは、家庭内のエネルギーの見える化について、実証実験に取り組んでいます。経済産業省主幹でスタートしたプロジェクトで、地域エネルギーマネジメントシステム(EDMS/Energy Data Management System)のうちの家庭内エネルギーマネジメントシステム(HEMS/Home Energy Management System)とのインターフェイス部分について、当社のソリューションである「Utility Center」が採用されており、情報処理の部分を担っています。この実証実験から得られたデータをベースに、さらに生活に寄与する形での活用やデマンドレスポンスの導入を進めています。
また、前述のマウイ島のプロジェクトでは、株式会社日立製作所などの複数の企業と一緒に、EVを活用した離島型スマートグリッド実証事業を行いました。
近年「エネルギーの見える化」が注目されています。当社では見える化というところから、実際にCO2を削減していく行動へとつなげることが重要だと考えています。さらに、強制的にではなく、個人が自発的にCO2を削減するようになるのが理想です。
その意味では、これからは(最先端の)技術だけでなく、そのような方向に進む社会的な気運が重要になります。人の行動やライフスタイルが変わらないと、実現することは難しいと言えます。しかも生活の快適性を損なわない形で行動やライフスタイルの変化をもたらさなければ、本当にインパクトのある結果を生み出すことはできません。単に技術を提供して終わりというのでは、失敗する可能性が高いでしょう。
例えば、家庭にHEMSを導入したとしましょう。消費電力を削減するという場合、冷房を切って我慢するという選択なども考えられるわけですが、長くは続きません。しかし、冷房をある一定の時間切っておくと近所の商店街の買い物でポイントが付与される、野菜などが割引されるといった“仕掛け”を構築することで、その街全体の消費電力量を削減につなげることが可能になるかもしれません。当社では、そのような個人だけでなく、社会全体でCO2削減に貢献できる仕組みの構築を進めているのですが、そこにITをうまく活用できるように目指しています。
最後に環境への取り組みに関する今後の方針についてお聞かせください。
これまでHPのDNAとして受け継がれてきた「グローバルシチズンシップ」を基に、今後も当社の製品・サービス・業務・サプライチェーンを通じて、環境への取り組みや社会への貢献を続けていきたいと考えております。
長島様 高見様 長田様
貴重なお時間のなか、取材にご協力いただきありがとうございました。オフィスツアーでは本社ビルのさまざまな環境への配慮を知り、とても驚かされました。
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