今回の「エコなニュース」は、超コンパクト液体洗剤「トップ NANOX」でおなじみのライオン株式会社様の取り組みをご紹介。
ライオン株式会社様では、環境に配慮した商品開発や化学物質の安全管理など、数多くの取り組みをなさっているようです。その詳細は、どのようなものなのでしょうか。
CSR推進部 環境保全推進室 室長 岡田様
早速ですが、よろしくお願いいたします。
環境に関する取り組みを始めたきっかけをお聞かせください。
もともと、当社の商品は水と切っても切れない関係にあり、環境という点では昔から取り組みを行っていました。
1960年代に、電気洗濯機が爆発的に普及し、それに合わせて合成洗剤が発売されるようになりました。しかし、当時の合成洗剤は洗浄力という点で問題はないのですが、生分解されにくかったため、河川が泡で覆われてしまう(発泡)という状況が発生していました。
現在(2011年6月現在)発売されている洗剤の多くは、地球環境に排出されると微生物により分解されるのですが、当時の合成洗剤は生分解性が悪かったため、そのような問題が起こっていたのです。また下水処理場の普及率もそれほどではなかったので、家庭の排水がそのまま川に流されてしまうわけです。
しかし、そのような状況はよくないということで、ライオンでは界面活性剤の生分解性をさらに向上させ、微生物に分解されるような研究を続けてきました。
1970年代になると、1979年制定の琵琶湖条例(滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例)がよく知られているかと思いますが、富栄養化により赤潮が発生するという問題が起こりました。
当時、洗剤に含まれていたリンが、赤潮の原因のひとつと考えられていましたが、実際には農薬や生活雑排水に含まれる物質によるところが大きいといえます。ただし、洗剤成分中のリンによる影響は少ないものの、原因のひとつというのも事実ではありました。
農薬や生活雑排水を減らしましょうといっても、なかなか実行することは難しいのですが、洗剤成分中のリンは企業努力として減らせることができるわけです。そこで、低リン化という現在のような「無リン化」につながる取り組みを始めました。「無リン化」というのは、文字どおりリンを使っていないということです。
洗剤というのは、界面活性剤(泡立つ成分)だけではなく、ビルダー(助剤)という成分と組み合わせることにより洗浄力を発生させるのですが、実はそのビルダーにリンが使われていたのです。ところが、現在ではリンを使うことを止め、ゼオライトなどの自然に害のない、富栄養化を引き起こさないビルダーを使用しています。このようなことを、「無リン化」と呼ぶわけです。
そのような環境への取り組み、特に水環境への取り組みについて、ライオンはとても長い歴史を有しているといえるでしょう。過去に苦い経験をした分、きちんと取り組まなければならないと考えているわけです。ライオンでは他社よりも先んじて、業界でも率先して、無リン化やソフト化(※生分解性のよい洗剤に改良すること)といった取り組みを進めてきました。
そのような意味で、当社における環境への取り組みは“遺伝子”として組み込まれており、環境問題が注目されているからといった理由からではなく、昔から当然のこととして積極的に行われていた背景があるわけです。
その後も、ローマクラブの「成長の限界(※)」ではありませんが、石油資源が枯渇するのではないかなどということが盛んにいわれるようになり、少量で十分な洗浄力があり、コンパクトな容器、植物などのリニューアブルなソースを活用した洗剤が求められるようになっていきました。
※民間のシンクタンクであるローマクラブが、1972年に発表した研究レポート。人類増加と地球環境や資源の有限性に対して、警鐘を鳴らしている。
石油資源はほかの産業でも多く使われるものであり、将来的には枯渇してしまうので、当社では植物原料にシフトしていこうという方針になりました。植物原料の界面活性剤「MES」は、1991年発売の「スパーク」から現在発売されている「トッププラチナクリア」にいたるまで、粉末洗剤に配合されています。とても洗浄力が高く、再生産が可能という特長があるうえ、植物は空気中にある炭素を固定し光合成に活用していることから、炭素を増やさないというカーボンニュートラルな原料ですので、地球温暖化防止にも貢献します。
さらに、当社で開発した界面活性剤は洗浄力が高いので、少量の使用で済むという利点もあります。どんなに生分解性が高いからといっても、自然環境への排出を考えると、界面活性剤を使用する量は少ないに越したことはありません。生分解性が高いだけなく、洗浄力に優れているので、洗濯1回当たりの有機物量は年々減少しています。
ライオンでは、環境に配慮した商品の組成(成分)開発を進めているのですが、その代表的なものが現在の「トップ」などに配合している「MES(アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム)」です。
パームなどの植物油脂を原料とした「MES」は洗浄力が高く、生分解性に優れた界面活性剤です。洗浄力が高いということは、裏を返せば汚れがよく落ちるということですが、実は、「MES」は酵素との相性がとてもいいのです。現在利用されている洗剤のほとんどでは、界面活性剤とビルダー、そして酵素が含まれています。“酵素パワーのトップ”としてもよく知られているかと思いますが、「トップ」は当社の商品で初めて酵素を配合した洗濯用洗剤なのです。
界面活性剤だけではなく、ビルダーや酵素と組み合わせることによって洗浄力を高めようと努力しているのです。界面活性剤というのは、汚れを落とす作用がある反面、酵素を痛めてしまう作用もあるのです。しかし、「MES」はほかの界面活性剤よりも酵素との相性がよく、上手に酵素の活性を引き出すことができるのです。
また、世界には日本ほど水の質がよくない地域も多く、西欧では日本の3倍から4倍の硬度を有する硬水というケースが一般的です。そのような地域で洗濯をしようとすると十分に泡立たないので、大量の洗剤を使うことになります。ところが、「MES」は硬度の高い水であってもしっかりと泡立つのです。そのような特長があるので、当社では植物油脂を原料とした「MES」を世界標準とすることを進めています。
このように、ライオンでは長年にわたって水環境を中心に取り組んできたという歴史があり、流行にのって始めたわけではないという点は、ぜひ知っていただきたいですね。
当社が環境対応先進企業を目指していこうと宣言したのは、2006年からです。今まで行っていた環境への取り組みを具現化していこうということで、「ECO LION」活動がスタートしました。
- 河川の発泡問題と植物原料の界面活性剤「MES」
- 5つの取り組みが柱の「ECO LION」活動
- LCAの視点に基づいた「ライオン エコ基準」
- 植物由来の界面活性剤「MEE」を配合した「トップ NANOX(ナノックス)」
- 化学物質の安全管理
- 環境の取り組みを実践するフィールドの「ライオン山梨の森」