南極の昭和基地でも、貴社の技術が活かされているそうですね。
そうですね。南極の昭和基地にある建物の多くに、ミサワホームの技術が活かされています。特に、南極地域観測隊の活動や生活を支える建物の建設という形でお手伝いさせていただいており、これまで(※2011年7月現在)に供給した建物は35棟、延べ床面積は約5,500平方メートルにもなります。
ミサワホームが協力することとなった発端は、1968年の第10次の南極地域観測隊(南極越冬隊)からです。南極地域観測隊が始まったのは1956年と古いのですが、観測を行うために隊員たちの居住棟が必要となりました。居住棟は、非常に寒くて気候条件も厳しいなか、住宅の分野は素人である隊員自身で基本的に組み立てなければならないという課題がありました。
そのため、比較的に簡単に組み立てることが可能という点でプレハブ住宅、寒さに強いということで木質を採用することになりました。実は、南極では木の住宅のほうが有利なのです。鉄を使うと、冬には気温がマイナス50℃にもなり、風速60m/秒(※時速216Kmに相当)という過酷な環境下では、すぐに凍ってしまいます。木の場合、軽いので輸送効率もいいというメリットがあります。そこで、建物の設計を担当していた「社団法人 日本建築学会」では総力を挙げて取り組み、手作りの木質パネル自体を構造体とし、コネクターと呼ばれる特殊な金属を結合部に用いる越冬小屋を完成させました。
当時、同じような木質パネルを当社でも生産していたことがきっかけとなり、第10次の南極地域観測隊から当社のパネルを提供させていただいております。木質パネルというのは断熱性に優れ、施工性がよく、組み立ても簡単というメリットがあります。ただし、組み立ては簡単といっても、ある程度は作業の慣れが必要なので、隊員の方々に対しては日本で仮組みのトレーニングを行います。
昭和基地はほぼ毎年増設していて、当社でもお手伝いしていますが、受注実績としては今年(2011年)省エネルギー棟が建設されたことで35棟となっています。大規模なものでいえば、昭和基地内の管理棟もミサワホームの木質パネルが採用されています。
木質パネルといっても、構造的には日本で使われるものと同じですが、多少異なる点もあります。日本で使われる木質パネルの場合、断熱材にはグラスウールが用いられるのですが、南極用のパネルには主に発泡系の断熱材が採用されています。
貴社の社員が毎年数名南極に行っているとのことですが、現地でどのような活動をしているのですか。
南極地域観測隊員は、文部科学省が管轄する国立極地研究所(極地研)の職員の方々ですが、それ以外にも様々な職種の方が必要ですので、当社の社員が技術指導や施工指導を行うため、出向するという形で同行しています。
ここ数年は自然エネルギー棟の施工などを目的に、当社の社員も連続で南極地域観測隊員に参加しています。また、昔の建物の営繕・修理も行っています。
あくまでも、ミサワホームから極地研に出向し、そこの職員という形で南極地域観測隊員に参加しており、現在までに延べ13名ほどが南極に行っています。実は、南極地域観測隊には冬隊(越冬隊)と夏隊というものがあり、冬と夏で隊員を入れ替えています。夏隊の2人が先に南極に行って、冬隊の1人が来ると3人となり、しばらくして夏隊の2人が帰ってくるというように、入れ替えが行われます。主に、当社の技術系と建設系の社員が参加しています。
冬には気温がマイナス50℃になり、風速60m/秒というブリザードが吹くという過酷な環境下ということもあり、短い夏場に素早く建てるための工夫が要求されます。
南極での技術や検証が活かされた商品なども販売されているのですか。
南極という厳しい環境下で当社の木質パネルの耐久性や堅牢性などの検証を行い、パネル自体の見直しが毎年行われています。また、検証から得たデータが、商品に反映されるケースもあります。夏涼しく冬暖かいというミサワホームの住宅性能には、南極でのノウハウが活かされています。
今年には、昭和基地自然エネルギー棟というものを建てています。その棟に採用されているのが、木質パネルの外側にさらに断熱材をつけるという付加断熱という技術です。これにより、断熱性能を高めることが可能です。
また、太陽熱を利用しようということで、「ソーラースパンドレル」という技術も採用しています。これは、太陽熱を集めて室内を暖める暖房補助システムです。
この考え方や技術的な要素は、当社で昨年発表した「ECO Flagship Model(エコフラッグシップモデル)」にも導入されています。「ECO Flagship Model」でも付加断熱の採用や、太陽光パネルに熱を吸収させる仕組みを設置するなど、南極での経験が活かされています。
「ECO Flagship Model」とは、「エネルギーを自給」し「自然と一体化」し「最適に成長する」という3つのテーマを軸とする、ライフサイクルCO2マイナス住宅のことです。
東京都杉並区高井戸に当社の研究施設などがあるのですが、そこで昨年の11月に「ECO Flagship Model」が完成しました。これは、さらにゼロ・エネルギー住宅という居住段階でのエネルギーをプラス・マイナスゼロとするだけではではなく、建設から居住、将来的に解体するまでという、建物のライフサイクルにおけるエネルギーもゼロにすることが可能です。
そのため、「ECO Flagship Model」とは居住段階では年間でエネルギーカバー率149%を達成し、ライフサイクルにおけるエネルギーもゼロにできる、環境に負荷をかけない新しい概念「LCCM」を取り入れた建物なのです。
「LCCM」とは、ライフサイクルカーボンマイナス(Life Cycle Carbon Minus)のことであり、当社ではこの考えを取り入れた住宅を「ECO Flagship Model」の量産タイプとして、今年の1月に販売開始しました。「LCCM」を取り入れた住宅を販売しているのは、業界でもミサワホームだけです。
- 新たな概念を盛り込んだ環境活動計画-「SUSTAINABLE2015」
- リサイクル素材の「M-Wood」と「M-Wood2」
- 昭和基地でもミサワホームの技術を活用
- 長く住み継がれ、資産価値を維持できる仕組みを体系化-「住まいるりんぐシステム」
- エネルギーの“見える化”と情報交換の場-「enecoco(エネココ)」
- 木材を扱う企業として-グローバルな植樹活動
- 東日本大震災の影響と環境意識の変化を見据えて