貴社の「LOOP(ループ)」開発の背景についてお聞かせください。
当社が木の住宅にこだわり、また、早い時期から環境に対する取り組みを進めてきたこともあって、「LOOP(Long Owner Program/ループ)」という技術が誕生したといっても過言ではないでしょう。
日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の「耐震診断 診断結果調査データ(2008年1月15日発表)」による木造住宅の老朽度と築年数の関係の考察では、築30年で急激に健全な住まいが減少し、築50年にもなると半数が老朽度の高い住宅となることが示されています。また、耐震診断後の補修工事実施率と築年数の関係を示す結果では、築50年以上になると補修工事費が大きくなるために工事をあきらめるケースが増大しており、我が国の住宅寿命は比較的短いことを示しています。
しかし、法隆寺などの現存する歴史的建造物の例が示すように、“木”は乾燥状態を維持する(木材の含水率を一定に保つ)ことで千年を超える耐久性を持つ、優れた建築材料として知られています。木造住宅の老朽化の主要因は湿気と考えられており、住宅の老朽化対策においては湿気を排除し、いかに木材の乾燥状態を維持する(木材の含水率を一定に保つ)ことができるかが課題として研究されてきました。
当社は日本の伝統的な木造建築に学び、高温多湿の気候風土では、構造材の乾燥状態を保つことが住宅の長寿命化にとって必要不可欠との認識に基づき、自然エネルギーを活用した半永久的に持続可能な仕組みである「壁体内換気システム(※)」を独自技術(1981年~2001年は特許権を取得)として約30年前(※2010年12月に取材)に開発し、その後も引き続き研究を進めて参りました。
※壁体内換気システム=壁の中に床下の乾燥した空気を通すことにより、構造躯体の木材を乾燥状態に保ち、内部結露を追放するシステムのこと。
当社では、“200年住宅”を実現するため、旧来の「壁体内換気システム」を抜本的に見直し、邸別かつ個々の壁体内換気パネルの最適化設計を実現し、同時に「木質パネル一体構法」における壁体内換気パネルの「邸別生産システム」も導入して、「LOOP」を開発するに至りました。
貴社の「LOOP(ループ)」という技術についてお聞かせください。
日本の住宅業界で初の邸別高耐久化システム技術「LOOP」とは、当社の築年数25年を超えるオーナー様の調査データなどを基に、当社独自技術の「壁体内換気システム」をより進化させたものです。将来的な構造躯体の含水率の状態を推定評価できる劣化診断推定評価システムをさらに発展させ、敷地条件など諸条件を考慮し、邸別に判定することが可能です。
「LOOP」は、次の4つの技術により実現されています。
●木材の含水率の状態を視覚的に示し、設計段階における対策立案を容易にする評価システム「Revoみえる図」の開発と活用
●住宅の建築方位・敷地条件・周辺環境などの諸条件を、個別に壁体内換気パネル設計に反映させる邸別パネル設計技術
●効果的な湿気対策を可能とし含水率の上昇要因を低減する「ドライセル」と「耐湿パネル」の採用
●構造躯体内部の点検を容易にする新機構「Lupe(ルーペ)」の採用
当社は、過去30年間の「壁体内換気システム」の搭載による実績と調査研究により、木材の耐久性に大きく影響を与える様々な諸条件(日照条件・方位・部位)を解明し、データとして蓄積してきました。そして、築20年以上の建物調査および実験データを解析してソフトウェア化し、プランニングの段階で日照条件・建物の方位・建物部位などの諸条件を入力すると、構造躯体における含水率の状態を視覚的に表示する「Revoみえる図」を評価システムとして開発しました。これにより、最も通気性が悪く、含水率が高くなる可能性がある構造部位を視覚的に確認することができ、設計の段階で住宅の壁体内換気パネルの設計・生産や構造計画を見直すことが可能となります。
また、邸別ごとの生活空間別特性や敷地条件(東西南北の壁面)、周辺環境(隣地との接近度合い)などの条件を壁体内換気パネルの設計に反映させ、邸別に生産することが可能となりました。これにより、壁体内換気パネルの設計が最適化され、換気性能がより向上し、個々の住まいの耐久性強化を実現することができます。
当社では、自然な状態で湿度がコントロールされて、床下の空気を使用したときと同じ効果を発揮させるために、湿気の吸収と放出を行う「吸放湿材」を備えたパネル「ドライセル」を開発しました。「ドライセル」は、湿度が高いときは湿分を吸い取り、低いときは吐き出して湿度を一定水準に安定させ、木材の乾燥状態を一定に保つことにより耐久性を高めます。
また、「耐湿パネル」とは、木材を約220度で熱処理することにより腐朽菌が付着しにくくなる、高い防腐性能を持つ素材「サーモウッド」をパネルの桟材とし、内部壁で湿気の多い居住空間(浴室・洗面室・脱衣室など)への設置に適した湿気に強いパネルです。「Revoみえる図」により、特に水周りなどの生活のなかで最も湿気が生じやすく、含水率が高くなる可能性があると判断された区画に使用することで、湿気による含水率の上昇を抑制します。
さらに、従来の住宅における一般的な劣化診断は、床下や小屋裏、屋根裏部屋などの壁面と外部の露出部位の視診・触診に頼っており、構造躯体内部の診断は行わない、もしくは診断できないというのが業界の実情でした。この常識を覆すため、当社では、構造躯体内部を点検する日本初の機構「見える窓 Lupe(ルーペ)」を開発しました。「Revoみえる図」で、木材の含水率が高くなる可能性が示された区画の上下部分に診断口として「見える窓 Lupe(ルーペ)」を設置し、定期的に壁体内換気パネルの含水率を測定します。「壁体内換気システム」の運用から得た、築30年に近い住まいの構造躯体に関するデータの解析結果の活用により、構造躯体全体の健全性と内部状態の診断が可能となりました。
「超長期住宅先導的モデル事業」として、貴社のプロジェクトが国から評価されたという話を聞きました。
福田元総理のときに200年住宅構想が発表されたことがきっかけとなり、4年前(※2010年12月に取材)から「超長期住宅先導的モデル事業」というものが実施されています。これは、住宅を長持ちさせるような先導的なアイディアを国土交通省が募集するものであり、優れた提案については補助金が支払われます。長期優良住宅の普及と促進が大きな目標です。
当社では、2008年・2009年・2010年と3年連続でこの事業に採択されました。2008年では、「LOOP」の考え方のベースになる基本概念を応募して採択されました。
2009年は、その考えに基づき、先述の「Revoみえる図」と、定期点検まで含めた一連の仕組みを「LOOP」と称して応募したところ、採択されました。
2010年には、長期優良住宅の認知度が比較的低い営業エリア外にも普及を進めていこうという案が採択され、これで3年連続の採択が実現しました。
壁のなかに床下の乾燥した空気を通すことにより、構造躯体の木材を乾燥状態に保ち、内部結露を追放する当社独自技術の「壁体内換気システム」を軸に、住宅を長持ちさせるという考え方をベースにしたアイディアが続けて採択されたことで、国土交通省からも高い評価を得ているのではないかと思います。
「LOOP」を採用した住宅に、「家族謳歌(おうか)」というブランドがありますね。こちらについてお聞かせください。
「家族謳歌(おうか)」は、2010年4月に発売した、快適性(健康配慮)・長寿命・エコロジー・エコノミーなど充実の基本性能を兼ね備えた、“エス・バイ・エルらしい”“家族みんなが「笑顔」になれる”、邸別高耐久化システム「LOOP」を搭載した長期優良住宅商品で、当社のなかでも主流の商品です。
昨今、地球環境保全への関心が増すなか、消費者のエコ商品への期待は高まっております。また、経済産業省・環境省・国土交通省による住宅エコポイント制度開始が追い風となり、エコ住宅に対する注目も益々集まっております。当社でもこのような消費者のニーズに応えるため、地球環境に配慮した住宅の開発を進めて参りました。
「家族謳歌」は、人気の設備アイテムである太陽光発電システムやエコキュート、全窓遮熱複層(Low-E)ガラス(※LOW EMISIVITY/低反射)仕様の断熱サッシなどを搭載することで、年間の光熱費を約92.8 %(※1)、一次エネルギー消費量を約69.3 %(※2)、CO2 排出量を約67.5 %(※3)削減でき、「ライフサイクルコスト」の大幅な低減を実現しています。また、次世代省エネ基準(Ⅳ地域)も高いレベルでクリアしており、住宅エコポイントの対象商品となっております。「LOOP」は、2009年1月より当社の住宅全棟(※「ネット住宅」の一部はオプション)を対象に搭載しています。
(※1~3)数値は、当社独自モデルによる計算結果であり、諸条件で変動するためその数値を保証するものではない。比較した一般住宅は、1992年新省エネ基準によるガス電気併用住宅モデル。
- 木造住宅へのこだわりが環境への取り組みのスタート
- トータルで環境問題を見直す「X:PS(バイパス)プロジェクト」
- 将来的には国産材で住宅を建てたい
- 長く住める家を-日本の住宅業界初の邸別高耐久化システム技術「LOOP」
- 家族で“エコ育”の場を設けることが必要