地球温暖化が進むと、どのような事態が予想されるのですか。
世界の気候モデルを予測することは極めて難しいので、明確に「このような事態が発生します」ということはいえないと思います。ただし、温暖化の影響ではないかと推測される事例は世界中から数多く報告されており、各国の科学者もその影響が温暖化のものであることをほぼ断定しています。
こうした影響を明らかにするため、現在WWFが行なっているプロジェクトの一つに、「地球温暖化の目撃者(Climate Witness)」があります。
これは、世界の様々な地域・場所・気候の下で生活している一般の人たちを取材し、温暖化に関する証言を集めて公開するというものです。
しかも、単に集めるだけではなく、その証言について世界30以上の国の100人を超える科学者や有識者に検証してもらい、科学的・専門的な見地から温暖化の影響の可能性が高いと思われる事例を公開しています。
この「地球温暖化の目撃者」は2004年12月、第10回目となる「国連気候変動枠組み条約(温暖化防止条約)」の締約国会議が開催されていたアルゼンチンのブエノスアイレスで、各国首脳に温暖化の脅威を理解してもらうため、初めて発表されました。
世界各地から集まった数多くの証言を見ると、観光産業や資源が失われている、農業が成り立たなくなっている、マラリアなどのそれまで存在しなかった病気が拡大している、それまで確認されていなかった標高にまでマラリアを媒介する蚊が生息しているなど、自然環境や生態系に大きな変化が起きていることが分かります。
日本国内でも、WWFジャパンが「目撃者」の方に取材を行い、稲作の現場への影響や桜の開花状況の変化などについて、お話を聞くことができました。証言に共通しているのは、いずれも、「10年~20年前とは明らかに気候が変わってきている」ということです。
もちろん、これらのすべてが100%温暖化による影響だということを証明する術はありません。ですが、温暖化をはじめ、環境問題において重要なのは、基本は環境が悪くならないように前もって行動する「予防原則(※)」です。
※予防原則=重大な影響が予測される場合、科学的には100%そのようになるという証明や根拠がなくても、予防的に必要な対策を取るべきという原則。
例えば、一つの影響を見て、これが本当に温暖化によるものかもしれないと考えたとします。それが、今よりも数年後に、どのようにひどいことになるのか。それを今の時点で考え、将来そのような事態となることを避けるため、行動することが必要なのです。
ゲリラ豪雨などが頻繁にニュースになりますが、あくまで「可能性」であるにせよ、未来のことを考えるならば、地球温暖化に関する警鐘には耳を傾けるべきなのではないかと思います。
WWFの地球温暖化防止の活動についてお聞かせください。
WWFジャパンが過去に行った温暖化防止活動の一例には、1997年に日本で成立した国際条約である「京都議定書」の発効を目指した取り組みを挙げることができます。世界が温暖化の防止を約束する「京都議定書」を成立させること。それは、国際社会が取り組む温暖化防止活動の、最初の難関だったといえるかもしれません。
実際には、1990年代初めから温暖化防止活動はスタートしていましたが、一般的にも温暖化という問題が注目され、取り組まれるようになってきたのは、やはり京都議定書が一つの大きなきっかけになったと思います。
ただし、苦労の末に成立した「京都議定書」も、各国がCO2排出量削減の目標の達成になかなか前向きになりきれず、温暖化防止自体がまだまだ課題を抱えているのが現状ではないかと思います。
政府が主導的に温暖化の防止を進めるというのは、非常に重要なことです。CO2排出量の規制をかける、火力発電や大規模なダムから風力発電や太陽光発電にシフトさせていくといった具体的な政策は、事実上、経済構造を変えていくという大変な取り組みです。
しかし、これをやらなければ、急激に進む温暖化を、大きな規模で効率的に止めることはできません。各個人が行う省エネなども大事ですが、そうした小さな取り組みを集めるだけでは解決できる問題ではないのです。
政策の重要性を指摘しつつ、その具体的な内容をWWFジャパンでは考案し、シミュレーションを行って各国に提案していくという活動を展開しています。いわゆる政策の提言です。
今後10年~20年を見据えたときに、これまでのような経済活動や、石油に頼ったエネルギー社会を続けていくということは難しくなる。そのような流れを積極的に転換させていくことで、社会的・経済的にも新しいチャンスを生み出していこうというのが基本的な趣旨です。
温暖化防止は「何かをガマンする」というような認識があるようですが、それはむしろ逆ではないかと私たちは思います。
その認識を変えるためにも、各国の政府に対しても働きかけを行い、意欲的・積極的な目標を掲げ、それに向かって社会を変えていくという活動を進めていきたいと考えています。
「京都議定書」に米国が批准しなかったというのは、やはりインパクトが大きかったのでしょうか。
米国はCO2の世界最大の排出国なので、確かにインパクトが大きくないといえば嘘になりますし、もちろん、WWFとしても米国に積極的な温暖化防止を期待したいと考えています。
しかし、大事なことは、米国の顔色を伺うことではありません。
例えば、米国を除いた国々が国際的に協力して、CO2排出量削減の取り組みを積極的に行うなら、それは大きな意味と成果を持つものになります。
国際協調の意義を考えるならば、こうした米国主導ではない、新しい国際社会の動きを形成していくことも、一つの大切な方向性です。むしろ、米国が批准していないから何もしないというのは、単なる責任逃れでしかありません。
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