自然環境保護活動と資源保護活動もなさっているとのことですが、そのなかでも、まずは有害化学物質に対する取り組みについてお聞かせください。
世界には人が使っている化学物質が8万種以上もあるといわれており、そのなかにはダイオキシンやPCB(Polychlorinated Biphenyl/ポリ塩化ビフェニル)のような、名の知られた非常に有害なものも含まれています。
この化学物質の問題を考えるときに大事なことは、その8万種のなかで、有害かどうかが判断できているものがごく一部に過ぎないという点です。多くの化学物質が、毒性の分からないまま使用されているのです。それを根本的に解決する術が、これまではありませんでした。
例えば、化学物質を使って何か製品を生産するときの基本的なルールは、「毒性が明らかな物質は使ってはいけない」というものでした。いわゆる、ダメなものをリストアップした「ブラックリスト」の形です。
しかし、これでは毒性が不明確な化学物質が、様々なところで使われてしまう可能性が残されてしまいます。それらが後々、有害性があることが発覚するケースもあります。無数にある化学物質の用途が多様化していくなか、これまでのような「ブラックリスト」の形では、対応が難しくなることは間違いありません。
そのなかで、2007年6月にEU(欧州連合)で、新しい化学物質に関する「REACH(リーチ/化学物質規制)(※)」という法律が誕生しました。
※REACH=Registration(登録)、Evaluation(評価)、Authorization of Chemicals(化学物質の承認)の略。
WWFも「REACH」の制定に向けて活動を行ったのですが、この法律の新しい点は、基本的にブラックリストの形ではなく、安全が確認された化学物質だけを使用する「ホワイトリスト」の形に、考え方をひっくり返した点です。これは、危険性のある化学物質を制限する上で、新しい切り口となる取り組みです。
この「REACH」の内容や考え方、化学物質によるリスクが、日本国内ではまだ十分に浸透していないことから、WWFジャパンでもそれを国内で紹介する取り組みを行ってきました。また、沖縄の海などで、実際に自然界のなかで確認される化学物質について調査を実施し、その影響を指摘するといった取り組みも行っていたことがあります。
海外の森林の違法な伐採についても活動をなさっているとのことですが、その現状についてお聞かせください。
WWFジャパンでは、ロシアと東南アジア(インドネシア)での森林保全に、重点的に取り組んでいます。その理由は、これらの国や地域で伐採された木材が日本に多く輸出され、消費されているからです。
インドネシアで起きているのは、一般によく知られている、いわゆる熱帯林の破壊です。しかし、ロシアでも同様に、シベリアの「タイガ」と呼ばれる針葉樹林の伐採が問題になっています。シベリアでは、ほかにも環境の汚染や森林火災、石油パイプラインの開発などによる、様々な環境問題が起きています。
ロシアの森で伐採される木材や、そこで生産される天然ガスなどのエネルギーは、日本でも消費されている資源です。もちろん、すべて日本が消費しているわけではありませんが、この消費が原因となった自然環境の破壊や資源の減少が起きています。消費国として、間接的に問題にかかわっているのです。
そこでWWFジャパンでは、ロシアなどで違法に伐採された木材が日本に輸入されたり、国内で消費されたりすることを防ぐため、国内の企業にそのような木材を扱わないように働きかけています。それには、違法な木材を判別するための手段や情報が必要になりますが、これらについて情報や識別のためのツールを提供し、森林の保全活動に取り組んでいます。
インドネシアでも同様です。重要なフィールドであるインドネシアのスマトラ島では、違法な森林伐採が横行し、パームオイル(※ヤシ油の一種)を採るためのプランテーション(植林)の設置などによって、様々な形で熱帯林環境の破壊が進んでいます。
問題を引き起こしている最も大きな原因の一つは、紙などの林産物を作るために、無計画に自然の森を伐採していることです。この問題は、森を減少させるだけでなく、野生生物を絶滅の縁に追い込んだり、さらなる森林破壊の原因を生み出したりする要因にもなっています。
例えば、違法伐採のために森のなかに作られた道を通って密猟者が森の奥深くに入り込み、希少な生物を密猟するケースや、国立公園のような保護区内に勝手に集落が作られるというような問題も起きているのです。
そこで、WWFジャパンでは国内の企業に対して、インドネシアから輸入されるコピー用紙などの紙パルプの原料に使用されている木材について、違法性を有するのかどうかを見極めるように働きかけを行っています。破壊された森の木材を使って生産された製品を、消費国である日本から締め出すことで、現地の森を守るのが狙いです。
このような取り組みが広がれば、日本の消費者は望みもしない違法な木材を原材料とした製品を利用しないで済むようになり、保護区の森などが破壊される可能性も低くすることができるでしょう。
発展途上国では、これらの取り組みが非常に難しい場合が数多くあります。WWFでは、資金的・技術的に現地の森林保全活動をバックアップし、地域が主体になった根強い活動を定着させる取り組みを行っています。
さらに、日本国内でも、海外の森林の保全につながる取り組みを実施しています。その一つが、企業などに対する「責任ある林産物の購入(調達)」の提案です。
「責任ある林産物の購入(調達)」とは、企業や自治体が商品として扱ったり、消費したりしている木材や紙の原料が、世界のどの森林から、どのような形で伐採されたのかを確かめ、破壊的な方法で生産された木材を使わないように、「社会的な責任」を果たして木材を利用することです。そして同時に、森林破壊に加担しない、環境に配慮した製品を積極的に購入することで、世界各地の森林の保全につなげる取り組みです。これは、特に大量の木材や紙を扱う企業や組織に対して有効な提案であり、環境に対して意識の高い一部の企業にも支持されています。
このような場合に必要とされる、環境に配慮した木材を確認する手段についても提言しています。
WWFがその設立にもかかわった、国際的な第三者機関の「FSC(=Forest Stewardship Council/森林管理協議会)」では、環境や地域社会に配慮した木材の生産と、その流通・加工の過程を認証しています。
そして、「FSC」のエコラベルがついた木材や紙を選ぶことで、一般の消費者は森林に配慮した消費を行うことが可能となり、世界的な森林保全活動にも間接的に貢献できるわけです。
WWFでは森林環境の保全に配慮し、地域社会の利益を損なうことなく、経済的に継続可能な形で生産された木材に対して与えられるFSC認証を、国際的な森林保全の手段の一つとして、普及と促進に取り組んでいます。
WWFジャパンでは、このFSC認証を日本に初めて紹介・導入しましたが、多くの方に森林認証制度を知ってもらい、「FSC」が認証した製品を購入することも、森林を持続可能な形で利用していくための大きな活動といえるでしょう。
もちろん、世界の森林の環境はすべて利用してよいというものではありませんから、自然状態を高いレベルで維持して残っている森林については、人が利用することのないように、保護を行う必要があります。
利用と保護、この2つのバランスを取ることが、森林保全の大きなカギになります。
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