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日本の翼JAL。航空機による大気観測で分かった 意外な事実とは?

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今回の「エコなニュース」は、日本の翼を担う日本航空(JAL)様の取り組みをご紹介。

日本航空様では、大気観測の「CONTRAIL(コントレール)プロジェクト」など、数多くの取り組みをなさっているそうです。その詳細は、どのようなものなのでしょうか。

総務本部 総務部 CSRグループ アシスタントマネジャー 江藤 仁樹 様

早速ですが、よろしくお願いいたします。

環境に関する取り組みを始めたきっかけをお聞かせください。

環境に関する取り組みがスタートした1990年代のころ、当時はIPCC(※)の第一次評価報告書が公表され、環境に対する社会的な関心も高まってきたことが、社内で環境分野の取り組みを始めたきっかけのひとつに挙げられると思います。

※国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略称。

社会的な情勢の変化に伴って、1990年7月に当社で「地球環境委員会」という会議体が発足しました。この委員会の発足が、今日までの具体的な環境への取り組みにつながってきていると言えるでしょう。

環境に関する取り組みがスタートした当時から、運航時にCO2排出量を削減するといったことをすでに実施していたのですか。

スタート当時から、廃棄物の処理や水の浄化など、法律で要求されるものについては当然のことながらすでに対応は完了していました。

しかし、現在のような飛行機の運航においてCO2をより削減するといったことは、1990年代の後半から2000年代にかけて、徐々に会社の取り組みとして具体的な形になりました。その意味では、法令順守から一歩進んだ取り組みになったと言えるのがこのころです。

航空機により大気観測を行う「CONTRAIL(コントレール)プロジェクト」は、どのようなきっかけで発足したのですか。

航空機による大気観測は1993年からスタートしたのですが、2005年より「CONTRAILプロジェクト」と名称を変えて継続しています。

この「CONTRAILプロジェクト」は、飛行機や航空の分野において可能な環境活動で、当社が参加できるプロジェクトを、「公益財団法人JAL財団(※旧日航財団)」が公募したことが最初のきっかけとなりました。

そもそも、“CONTRAIL”とはどのような意味なのですか。

「Comprehensive Observation Network for Trace gases by Airliner」の略称なのですが、訳すと「広範囲な(地球規模の)旅客機を利用した大気観測ネットワーク」となるでしょうか。

もともと、「CONTRAIL」には「飛行機雲」という意味があります。空にちなんだプロジェクトであり、研究内容そのものを略称として表し、かつ皆様に親しんでいただける名称ということでこの名称に決まりました。

大気観測のデータは、貴社のホームページなどで公開されているのですか。

観測データは、もともとは研究者の方々が研究に使うためのものなので、独立行政法人国立環境研究所の「CONTRAILプロジェクト」に関するWebサイトから世界中の研究者に提供されています。

また、当社のホームページでは、一般の方々がご覧になっても観測の成果をご理解いただけるよう、結果の一部について、分かりやすくまとめた形で公開しています。

なお、国立環境研究所の本プロジェクトWebサイトで申請していただければ、これらのデータを利用することが可能です。

大気の観測はどのようにして行うのですか。

具体的には、飛行機に本プロジェクトで開発された専用の観測機器を搭載して行います。それが、自動大気採取装置(ASE/Automatic air Sampling Equipment)とCO2濃度連続測定装置(CME/Continuous CO2 Measuring Equipment)の2種類の機器です。

自動大気採取装置(ASE)
 CO2濃度連続測定装置(CME)

CMEは二酸化炭素(CO2)の濃度を上空で測定する装置であり、機体の上昇中・巡航中・降下中と連続してデータを取得することが可能です。

ASEは、「フラスコ」と呼ばれる金属の容器にあらかじめプログラミングされた上空の12地点において空気をサンプリング(採取)して、地上に持ち帰るための装置です。その空気を、国立環境研究所において高精度の機器により分析します。これによってCO2だけでなく、その20倍もの温室効果があると言われるメタンや亜酸化窒素、一酸化炭素などの、大気中に含まれているものの濃度が分析されます。

観測機器を搭載するためには、機体内部を改修しなければなりません。現在、ボーイング777(トリプルセブン)-200ER型機(国際線機材)8機がこの改修を施され、観測機器を搭載することが可能となっています。

そのうちの2機については、機体に「CONTRAILプロジェクト」のロゴマークを塗装しています。ロゴマークの横には『この飛行機は上空のCO2濃度を観測しています。』という表記をしています。これは、本プロジェクトに携わっている全てのメンバーが、多くの方々にこのプロジェクトのことを知っていただき、その重要さをご理解いただけることを願っているからです。

 「CONTRAILプロジェクト」のロゴマーク

今後、観測機器を搭載できる機体は増えていくのでしょうか。

今後についてはまだ、検討中です。しかし、国際線のボーイング777型機の導入後もボーイング787型機、エアバスA350型機など新たな機材が次々と導入、あるいは導入の計画がされており、未定ではありますが、日本航空としてプロジェクトへの参加・協力が続く限り、観測機器の搭載機が増えていくのではないかと予想されます。

「CONTRAILプロジェクト」では、調査によりどのようなことが分かっているのですか。

例えば、成田空港上空の各高度におけるCO2濃度の測定データなどを弊社のホームページで紹介しています。縦軸がCO2濃度、横軸が年代を表しています。それを見ると、年々CO2濃度が高くなっていることが分かります。

成田空港上空の各高度におけるCO2濃度の測定データ

また、季節変化という観点からは、秋から冬にかけてCO2が濃くなり、春から夏にかけては薄まるという傾向が見られます。これは、地上の植物による光合成と呼吸の影響です。夏季には光合成が活発に行われるので、CO2濃度が低くなります。

一般に大型旅客機が飛行するのは、地上10キロメートルから12キロメートルほどの範囲です。そのようなところまで植物の光合成の影響が見られるというのは、航空機による大気観測データによって初めて分かりました。

さらには、世界の広範囲でCO2濃度の平面分布も明らかになってきました。研究者の方々は、これらのデータの解析結果を基に論文などを多数発表されています。

航空会社としてこのような取り組みを行っているのは、国内では当社のみです。また、同様のプロジェクトを欧州ではルフトハンザ(Lufthansa)ドイツ航空が参加して行っています。定期的に旅客機を運航する企業の傘下で、このような大気観測の取り組みを実施しているグループは、世界を見てもわずか2つです。

今までも、研究者が機体をチャーターして大気観測を行っていました。しかし、大型旅客機の国際線定期便で世界の広範囲の観測を開始したのは、「CONTRAILプロジェクト」が世界で初めての試みです。


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