「社有林」の活用と文化育成に繋がった経営陣の英断 :: 三井物産のCSR・環境活動
お話に出てきた「三井物産の森」について、所有に至る経緯など、取組みのきっかけを教えてください。
近藤氏:「三井物産の森」は、全国74カ所、合計約4万4千ヘクタール、国土の0.1%という広大な山林です。
「三井物産の森」は民間企業が所有している山林で4番目の広さとなります。
社有林を取得し始めたのは1911年。財閥解体前の旧三井物産の頃、木材を売買していたのですが、山林の所有者から木材を買って商売をするならいっそ自社で山林を保有していた方が効率的という発想がきっかけとなったようです。結果的に、木材売買のための、川上から川下までのサプライチェーンの確立に繋がりました。社有林の8割は北海道にあるのですが、本州に比べ土地が平坦で山も険しくないため、運送しやすいというメリットもあります。
現在も北海道や一部本州で活発に林業・木材生産を行っており、日本の木材需要の0.1%を供給しています。当社事業との連携という面で言えば、当社も出資する北海道苫小牧でのバイオマス発電事業(2016年12月から本格稼働予定)に対して、社有林から出る未利用材(丸太)を供給しています。
広大な山林を管理するのは大変なご苦労もあるかと思います。
近藤氏:森は、人の手が加わった「人工林(循環林)」、自然の力で生まれ育ち一部林業で利用されている「天然林」、人の手が入ったことのない「原生林」と3つのタイプに分けられます。「三井物産の森」は人工林が4割、天然林が6割という比率になっています。一度でも伐採された森は、その後も人が適切に管理しなければ、森が持つ多様な公益的・産業的価値を維持できない環境になってしまいます。現在の日本では木材需要が減っている上に、安価な輸入材がたくさん入ってくることもあり、手入れされない森が増えている実情があります。そのため、環境の悪い森は生物が減り、水を蓄えられず、山崩れも起きやすくなってしまいます。
このような現状を踏まえて、2006年に社有林の保有方針を新たに策定しました。林業における産業的な価値のみならず、長期間にわたり適切に管理することで自然環境を維持し、CO2の吸収や水源涵養機能などの公益的な価値も保持する重要な資産として位置づけたのです。これには、生物多様性の保全も含まれ、例えば、尾瀬国立公園の一部となっている福島県の田代山林では貴重な生態系のそのままの形で保護したり、また北海道の宗谷山林では絶滅危惧種の淡水魚であるイトウの保全などを進めています。
また、公益的な価値を保持すると同時に、社会貢献の場として様々なプログラムを企画・実施し活用しています。一例として、2011年から一般の親子の方々へ「森のきょうしつ」(図3参照)として社有林にお連れし、間伐体験などのイベントを通じて森林の役割や林業の大切さを伝えています。
社有林を長期的に管理することで、様々な側面で活かされているのですね。
近藤氏:環境保全が地域文化を守ることにつながることもあります。例えば北海道では、アイヌ文化の象徴的な場所や景勝地が山林の中にあるため、地域のアイヌ民族の方々と協定を結び、自然や生活と私達の森林管理が共存、共栄していく仕組みを作っています。これは、昔から地域のアイヌ民族の方々との協力の下で林業を展開していたことが背景にありますが、企業がこのような協定を締結することは珍しいことのようです。
社有林で取得している「FSC®認証」について教えてください。
近藤氏:社有林の保有方針の下に活動してきた結果の一つと言えるのが「FSC®認証」です。森の管理方法が一定の基準を満たしていると与えられる国際森林認証なのですが、環境を守るだけでなく、「合法性」「労働者の権利」「管理計画」など社会や経済に関わるチェックポイントもあるので、決して簡単に取得できるものではありません。当社では「三井物産の森」すべての山林でこの認証を取得しています。また、日本国内の森林認証である「SGEC」も同様に、当社の全山林で取得しています。
尚、最終製品に「FSC」のマークを表示するためには、森林管理だけでなく、その後の木材の運送や製品の製造、販売に至るまで、中間に入るすべての工場や店舗で認証をとっている必要があります。先日開催された伊勢志摩サミットにおいて、各国の首脳が囲んだ机とイスに「FSC」が表示された「三井物産の森」の木材が使われました(図4参照)。半分程度が当社社有林から出た木材ということで、栄誉なことと思っています。2020年の東京オリンピックでも認証材の使用が推進されているので、当社の木材が使用されることを期待しています。
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